自動車を日常から仕事や通勤、送り迎え、レジャー等にご使用されている方は多いかと思います。しかし、いったん自己破産をすると、持っている財産を処分しなければなりません。自動車も基本的には財産として処分の対象になります。しかし、「車がないと仕事にならない」「どうしても車だけは維持したい」という人もいるでしょう。こうした場合、自己破産によって車はすべて売却されてしまうのか、維持する方法はあるのかということが重要なテーマとなってきます。
差押が禁止されている財産
自己破産の申立を行い、破産手続き開始の決定がされると、破産者が持っている財産はすべて破産財団に組み込まれ、破産管財人によって管理・処分されることになります。これまで持っていた財産に関する管理処分権を失うことになります。しかし、着るものや寝るものを含め、すべての財産を何もかも取り上げられたら、破産者は生活に困ってしまいます。そこで、破産者の最低限の生活を保障する必要上、破産法34条では、例外的に破産財団に組み込まれない財産(自己破産しても破産者が自由に利用したり、処分したりすることができる財産)を認めています。
① 破産手続き開始の決定後に取得した財産。
② 現金(99万円以下)
③ 法律上差押えが禁止されている財産(差押禁止動産※1と差押禁止債権※2)があります。
※1 衣服、寝具、家具、台所用品、畳および建具、1月間の生活に必要な食料および燃料、標準的な世帯の2月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭、職業上欠くことのできない器具
※2 給与、賃金、恩給、国民年金、生活保護や福祉、扶養を目的とした給付請求権等
「自家用車」は差押禁止対象ではないので、差押されてしまいます。
では、自己破産が車の所有者へ与える影響とはどんなものでしょうか
自動車ローンが残っている場合
車のローンを組む場合、一般的には、販売元ディーラーとの間で割賦販売契約を締結し、割賦金の支払いが完了しない限り、その所有権を留保する特約(所有権留保特約)を結びます。この所有権留保のある車はそもそも所有権が破産者にありません。販売元ディーラーは所有者として、未払い代金債権を被担保債権として自動車を換価処分して優先弁済を受けることになります。債務者は自動車を保持することができなくなります。この時に、破産者=債務者 以外に保証人がいた場合は、販売元ディーラーは自動車の換価処分と並行してまたは、これとは別に保証人に対して未払い代金の返還を求めることができます。
自動車ローンが残っていない場合、一括で車を購入した場合
車の価値が20万円未満の場合
自動車も所有財産として換価処分の対象になります。ただし、破産手続においては、債務者が保有する20万円
未満であると認められると、換価処分の対象となりませんので、自動車を保持し続けることは可能です。これは、本来、破産手続き後に取得した財産、99万円以下の現金、差押禁止財産しか認められない自由財産の
範囲の拡張が認められるからです。財産が破産者の生活に必要不可欠なものと認められれば 自由財産として認められます。(破産法34条第4項)そして、東京地裁における自由財産拡張基準というものがあり、処分見込額が20万円以下の自動車については 自由財産の拡張の申立をすることなく、自由財産として扱われることになります。東京地裁以外の裁判所でも採用されており、スタンダ―ドな基準になっています。ただし各地の地方裁判所によって基準が異なりますので注意は必要です。
車の価値が20万円以上の場合これに対し、自動車の市場価格が20万円以上であれば、自動車は売却処分されてしまいます。売値が20万円以上であるかが問題になります。手順としては、車の一括見積などで3~4社程度に見積してもらいます。その中で一番安い買い取り業者が、20万円以下であれば その見積書があれば車を残すことができます。また、車種などにより査定や平均価格の算定が難しい場合は、イエローブック(日本自動車査定協会の情報誌)やオートガイドレッドブック(自動車月報)を元に評価額を算定しましょう。ご自身で算出した場合は、参照したページのコピーを裁判所に提出します。よって車の価値が20万円以上であるか、ないかが 保持が続けられるかのポイントになります。
そこで、年式が古い場合はどうでしょうか。年式が古いため市場価格がないことが明らかな車は査定が不要となることもあります。普通車なら6年、軽自動車なら4年が目安です。(参考 国税庁の原価償却資産の耐用年数)この場合であれば処分の対象になりません。
自己破産後も車が必要な場合の対処法と注意点
上記のように、自動車ローンが残っているような場合や自己所有でも車の価値が20万円以上であると換価処分の対象になり、破産者にとっては影響が少なくありません。そのため破産者にとって、車を処分し換金したり、その後自己の車を保持するための対処法はあるかということが問題になります。方法として以下のような方法が考えられます。
自己破産前に車を処分する。
ご自身で処分すると裁判所からの免責(借金の免除)がおりない可能性があります。
① 申立前に車の所有者の名義を変更
確かに、申立前に名義を親族や友人に変更すれば、車は没収されません。しかし、財産隠しとみなされ免責が受けられないリスクがあります。またローン会社が名義変更を認めるかどうかも問題になります。
② 申立前のロ―ンの完済
申立前に車のローンを完済し、ローン会社の担保権の行使を避けようとする方もいらっしゃるかと思いますが、自己破産においては、裁判所はすべての債権者を平等に扱わなければなりません。(債権者平等の原則)よってローン会社など特定の債権者にだけ優先的に弁済すると弁済の効力が否定される場合があります。注意が必要です。
③ 車の評価額がローンの残高を上回る場合
車を処分することで差額分が出た場合は、裁判所費用や弁護士費用に充てる目的で、売却するのであれば問題ないと言われています。ただし、売却価格が評価額を下回ると本来ローン会社の担保権の行使で回収できた額を回収できない事態になり、財産隠しとみなされる可能性もあります。
自己破産後に車が必要な場合の対処法
① 車のローンがある場合、家族にローン残高を支払ってもらう。
支払い不能の状態になってから自らローンを完済しようとすると免責が下りないリスクがあります。しかし、家族や第三者が代わりに返済することは可能です。
② 車のローンがなく車の価値が20万円以上の場合でも、家族の介護など車を所有するやむを得ない理由がある場合、裁判所の判断によっては車の換価処分しないということもあり得ます。もし介護などで車が必要な場合は、申立先の裁判所の窓口に相談しましょう。
③ 親族経由で破産管財人から車を買い取ってもらう。
破産者の財産を換価処分するにあたり、親族等がその財産を相当価格で引き受けるということは可能です。親族が支払った代金は全額が債権者に対する配当するお金となります。
④ 個人再生、任意整理を検討する。
車などの財産が没収されず返済の負担が軽くなります。もっとも借金は全額免除されなくなりますし、個人再生の場合は、再生計画について債権者の信任を得た上で、裁判所に許可を得る必要があり、ハードルは決して低くありません。
⑤ 自己破産後に車を購入する。
一括であれば購入できます。ただし、ローンが残っている状態で自己破産すると、信用情報機関へ事故情報として個人情報が登録されるため、登録期間を終えるまで、あらたに車のローンを組むことは難しくなります。ローンを組んで購入したい場合は、親族にお願いして親族名義でローンを組むことをお勧めします。
まとめ
自己破産をすると、自家用車は 差押の禁止対象ではないので、売却され換価処分されてしまいます。しかし、自動車のローンが残っておらず、価値が20万円未満の場合、「自由財産の拡張」が認められ、自働車を保持することができます。また、年式が古く市場価値がないことが明らかであれば売却処分の対象にならず保持ができます。ポイントは20万円です。さらに、弁護士費用・裁判所費用に充てる目的で、ローン残高以上の価格での売却をすることが認められています。そして、家族や第三者にローン残高を支払ってもらったり、介護等やむを得ない理由があれば 保持が認められる場合があります。いずれにしろ、裁判所による判断が入り、場合によっては 財産隠しとして免責が受けられないリスクがあることから、専門家である司法書士や弁護士にまず相談されるのがよろしいでしょう。