自己破産をすると、すべての財産を没収されてしまうのではと考える人もいるでしょう。しかし、自己破産をしても一定の財産を持ち続けることは認められているので安心してください。財産は、破産財産と自由財産に分けられ、自由財産については持ち続けることができるのです。そもそも、すべてを取り上げられてしまったら生活が成り立ちませんからね。自己破産者とはいえ、最低限の生活を続ける権利があるのです。自己破産後の生活立て直しをスムーズに行うためにも、どんな財産をどのくらい持ち続けることができるのかを理解しておきましょう。
財産は破産財団と自由財産に分類される
自己破産者の財産は、破産財団と自由財産に分類することができます。破産財団とは、破産手続をするときに破産管財人が管理および処分をする権利を有する財産のことです。自由財産とは、破産財団以外の財産で、自己破産後も所持を認められる財産となります。まずは、破産財団と自由財産についての基本を確認しておきましょう。
自己破産によって制限を受けるのは、破産財団となったものだけなので、何も所有をしていない丸裸状態になることはありません。99万円以下の現金だけでなく、最低限、生活に必要と認められたものは所持できるのでまずは安心してください。たとえば、携帯やスマホなども、現代では生活必需品と認められているため使用料金の滞納や機種本体の分割未払いがなければそのまま使い続けることができます。
まずは、自分の財産を破産財団と自由財産に分けて考えてみましょう。自分には何もないと思っていても、改めて見直してみるとさまざまなものを持っていることが分かります。実は、タンスの奥から現金が出てきたという例も少なくありません。株取り引きがブームのときに口座を作成し、購入したままになっているものがあることもあります。普段は意識しなくても、資産を持っている可能性は高いのです。
自己破産によって処分される財産
自己破産によって処分される財産で主なものには、以下のようなものがあります。なお、自己破産と同時に破産管理人の管理下となるので、自由に売却・解約してはいけません。
・家や土地などの不動産
・車
・株式
・高級品(貴金属類・骨とう品などで価値が高いもの)
・退職金(現時点でもらえる金額の8分の1が20万円を超える場合)
・保険の解約返戻金(20万円を超える場合)
・万円を超える現金
・敷金返還請求権(20万円を超える場合)
不動産に関しては、住宅ローンの残高が評価額の2倍以上残っている場合は、資産として認められないこともあります。持ち家であっても、ローンの残高が多ければ資産とは認められないからです。また、自動車に関しては評価額が20万円以上で資産とみなされるものの、通院や仕事での使用など、生活で必要と認められる場合には免除されることもあります。また、年式が古い車では評価額が20万円に満たないこともあるので、必ずしも所持できないわけではありません。
なお、個人の趣味のコレクション品なども、裁判所から資産価値があると判断を受けたものは破産財団となる場合があります。マニアにとってはいくらお金を積んでもほしいとされるものも多く、売却することで思わぬ金額となることがあるからです。一所懸命にコレクションした苦労や思いも分かりますが、自己破産をするからには、裁判所から所持を認められないものは持ち続けることができないのです。借金をなくしてもらうには、資産をすべて明らかにし、処分するべきものは処分しなくてはいけないのです。愛着があるものであっても、あきらめて手放してください。
自己破産で処分されない財産3つとは?
自己破産で処分されない財産には、99万円以下の現金・差押禁止財産・拡張できる財産の3つがあります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
<差押禁止財産>
差押禁止財産には、以下のようなものがあります。いずれも、生活必需品として認められているものであり、没収することで生活が困難になることが予想されるものです。差押禁止財産については、自己破産決定後も使い続けることができるので無理に処分する必要はありません。
・衣服
・家具
・寝具
・台所用品
・職業で必要な器具や道具
・食料や燃料
<99万円以下の現金>
自己破産をしても、現金を持ってはいけないという決まりはありません。自己破産後に生活をするには、最低限の現金が必要です。自己破産後は、基本としてクレジットカードを使うことができなくなります。クレジットカードが使えない状況では、現金支払いが基本になるため、ある程度の金額を持っていないとたちまち生活が破たんしてしまうことでしょう。そのため、自己破産後であっても、99万円以下の現金の所持は認められているのです。
なお、通常、預金は現金とは別に扱われます。預金については、20万円までの所持が認められています。つまり、現金99万円と預金20万円までは、お金の所持が認められるというわけですね。ただし、大阪地裁などでは、普通預金を現金に準ずるものとして運用している場合もあります。大阪地裁では、現金で大金を所持するよりも預金しているほうが通常だとの判断があるからです。管轄の裁判所で実際にどのような運用になっているのか、確認が必要です。
さて、99万円までの現金を持つことができるとしても、実際に自己破産する人はほとんど現金を持ち合わせていないことも多いものです。お金が有り余る状態であれば、返済不可能とはなりにくいですからね。そのため、自己破産後で99万円程度の現金が手元にあるのは、借金金額が多く、もともとの収入が多い人や退職金が入る人などが該当することになるでしょう。しかし、自己破産をしても当面の生活ができる程度の現金を持てることは、大きな安心材料と言えますね。
<拡張できる財産>
拡張できる財産とは、個々の事情によって自由財産として認められるものを呼びます。破産法でも、34条4項、,「破産者の生活の状況,破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額,破産者が収入を得る見込みその他の事情」があるときは、自由財産を拡張できることを認めています。
たとえば、自己破産時に本来なら処分するべき不動産や車なども、相応な事情があれば処分せずにそのまま所持することができます。ただし、あくまでも裁判所が認めた場合だけであって、自己判断で処分を保留することはできません。裁判所の許可なく所持し続けていると、免責を得られない場合があるので注意してください。
裁判所の許可を得るためには、相応の理由が必要です。自動車にしても、単にないと不便だからというのでは通りません。通院に必要・仕事で使う必要があるなど、客観的に所持が妥当と思われる理由があるときに認められることになります。拡張できる財産として認められるかどうかについては、経験がものをいう部分でもあるので、信頼できる弁護士によく相談してみるといいでしょう。
まとめ
自己破産後であっても、すべての財産を失うわけではないので安心してください。自己破産では、借金を帳消しにしてもらう代わりに、家や車など一定の財産を処分する必要があるのは事実です。しかし、すべての財産をなくしてしまえば、そもそも自己破産後の生活設計が成り立たず、再建もうまくいきません。そこで、自己破産後であっても処分されない「自由財産」があるのです。自由財産としては、99万円以下の現金・差押禁止財産・拡張できる財産の3種類があります。処分されない財産があるとはいえ、自己破産後に余裕を持って暮らすのは難しくなります。早めに生活再建ができるよう、自由財産を駆使して努力しましょう。