自己破産には、同時廃止と管財事件の2種類があります。まずは、同時廃止と管財事件の違いは、破産管財人の指定を受けるかにあります。破産管財人の指定を受けるには、処分するべき財産があるかどうかが関係してきます。同時廃止では破産者に処分するべき資産がないため、破産管財人の指定を受けることなく、手続きは完了します。一方、管財事件となると破産管財人の管理の下で、資産の等価配当などが行われることになり、手続き完了までに時間と費用がかかることになるのです。今回は、同時廃止と管財事件の違いや注意点など、詳しく見ていきましょう。
同時廃止と管財事件の違い
自己破産の手続きには、同時廃止と管財事件の2種類があります。実は、同時廃止で済むのか管財事件となるのかで、随分と手間や費用が違ってくるのです。自己破産をしたときに、自分でどちらかを選べるというわけではありません。あくまでも、自己破産をしたときの財産状態などで裁判所が判断することになる点を忘れないでください。それでは、まず、同時廃止と管財事件の違いから学びましょう。
同時廃止とは、自己破産の際に債権の返済能力がない、つまり処分できる財産がないと判断され、申請と同時に破産手続き終了となるものです。従って、手続きも簡単に終わります。債権を清算しようにも、資産が少な過ぎる・何も持っていないなどの状況なら処分のしようがありませんからね。一般的には、自己破産をする人は財産がないケースで、多くが同時廃止となるのが現実です。
管財事件は、破産管財人が選任される破産手続きをのことを呼びます。自己破産の際に管財事件として認定された場合は、裁判所から破産管財人が選出され、破産者の財産を調査・管理するだけでなく、処分して配当することになります。第三者が間に入ることで、公平かつ適切な配当が実現できるのです。
同時廃止の場合は、破産管財人が選出されないため、報酬などの費用は発生しません。申し立ての費用(東京裁判所の一例では15,000⁰円程度)だけの負担となります。しかし、管財事件となれば、破産管財人の報酬をはじめ、予納金などさまざまな費用が発生することになります少なくとも必要な費用は合計で数十万円は下らないでしょう。なお、破産管財人となるには、相応の知識と経験が必要とされるため、その道のプロが指名されます。
同時廃止の問題点
自己破産の中でも、同時廃止で済むのなら手続きも簡易化され、期間もかかりません。また、予納金も少なく済むため、できることならば同時廃止で済ませたいと思うのも当然のことでしょう。もちろん、現時点の資産に乏しく、管財事件の条件を満たしていないのなら同時廃止として問題なく手続きを進めることができます。
しかし、中には、わざと資産を隠し持っているなどの悪質な例が後を絶ちません。預金や他者の評価が伴う資産は分かりやすいのですが、現金などは申告に頼るしかないのが現状と言えます。また、同時廃止をすることは、本来なすべき破産調査をきちんと行わないことを意味することでもあるため、真相は闇の中に消えてしまいやすいのも事実です。
同時廃止は簡易的な手続きで済むことがメリットですが、法の目をかいくぐって不当な利益を受けている例がないとも言えません。そのため、少額管財事件を適用し、破産管財人を間に立てる運用を行う裁判所が増えているのです。
少額管財事件とは?
管財事件の中には、少額管財事件と呼ばれるものも含まれています。少額管財事件とは、管財事件の予納金を少額に抑えるための運用方式です。基本的には、自己破産は同時廃止と管財事件に大きく分けて取り扱われることになります。このうち、同時廃止は簡易的な手続きで終わるため、本来細かく調査するべきものが漏れてしまう可能性がないとは言えません。
そこで、一定基準を満たした場合は、少額管財事件を適用して破産管財人を立てて管理をするのです。少額管財事件に指定された場合の予納金は、通常の管財事件よりも低めに設定されているため、破産者にとっても負担が少なくて済むというメリットがあります。たとえば、管財事件では予納金が最低でも50万円以上必要ですが、少額管財事件は20万円以上が目安です。
なお、少額管財については破産法には明記されていないため、あくまでも裁判所の運用しだいということになります。そのため、裁判所の判断によっては少額管財事件の運用を行わず、管財事件として取り扱われることもあります。
管財事件として扱われる基準
では、管財事件として扱われる基準を確認しておきましょう。一般的には、20万円以上の財産があるときは管財事件として扱われることになります。ただし、各地裁によっても認定基準が異なるのであくまで参考にとどめてください。
・東京地裁:所有財産の中で評価額20万円以上のものがひとつでも含まれている場合
・横浜地裁:個々の資産が20万円以上か、現金が33万円以上ある場合
・大阪地裁:保有現金が30万円を超える場合や預貯金と現金の合計が50万円を超える場合
・名古屋地裁:総額40万円以上の資産がある・個々の資産が30万円以上の戸別資産がある場合
・広島地裁:総額60万円以上の資産がある場合
・福岡地裁:総額50万円以上の資産がある場合
現金の所有については、自己破産後であっても99万円以下の所持が自由資産として認められているものです。しかし、所持金額の多さや裁判所の判断によっては、管財事件として取り扱う理由になることもあるのだと理解しておきましょう。なお、各地裁の基準を外れる場合でも、個々の事情によって管財事件とみなされる場合もあるので自己判断だけに頼るのは禁物です。実際には、裁判所がどのように判断するかに左右されるのであくまでも目安と考えて、弁護士などに相談することをおすすめします。
財産の評価額
自己破産した場合、所持している財産はどのように評価されるのでしょうか。
<不動産の場合>
不動産の場合は、役所に出向いて「固定資産評価証明書」を発行してもらいましょう。固定資産評価証明書によって、土地や家屋の評価額を公的に証明することができます。固定資産評価証明書は、持ち主に固定資産税を支払ってもらうための基礎となるものであり、実際の市場価格と比べると安価になることもあります。
もうひとつ、不動産業者に依頼し、住宅や土地の売却価格を査定してもらうことで実際の市場価格を知ることができます。立地や周辺物件の評価額などを考慮した結果になるため、実際に売買される価格の目安が分かります。裁判所では、固定資産評価証明書と不動産業者の査定を比較して、総合的に判断することになります。
なお、古い・痛みが激しい家屋や、田舎で買い手がつきそうもない土地など、資産価値が乏しいと裁判所が判断した場合は、自己破産時の処分対象にならない場合もあります。ただし、あくまでも最終判断は裁判所によるものであることを忘れないでください。
<車の場合>
車の場合は、評価額が20万円以上ある場合は資産とみなされるため、破産管財人の管理下で処分する必要があります、実際の評価は、中古車業者に依頼することになるでしょう。なお、以下の基準を満たす場合は、無価値とみなされ査定不要とされ、原則として処分が不要になります。
・普通乗用自動車:登録後6年を経過したもの
・軽自動車・商用車:登録後4年を経過したもの
ただし、いわゆる外車ブランドなどの高級車の場合は、上記の年数を超えていても20万円以上の価値がつく場合も多くあります。従って、念のためという意味でも中古車業者に査定を依頼しておくべきでしょう。また、車自体の評価が資産とみなされる基準を満たなくても、ローンが残っている場合は債務者が車の引き渡しを要求するため、継続所持はは難しくなるでしょう。
<退職金の場合>
退職金の場合は、現在の状況によって資産としての評価が異なります。具体的には、以下を参考にしてください。
・退職金をもらっておらず現時点で退職の見込みがない:退職金見込み額の8分の1
・自己破産手続き中に退職する予定だが退職金をもらっていない:退職金額の4分の1
・退職後だがまだ退職金をもらっていない:退職金額の4分の1
すでに退職金を支給されており使ってしまったという場合でも、支給された金額の8分の1は回収されることになるので注意しましょう。なお、現金で一括納入できないときは、8分の1の金額に達するまで数か月にわたって納入することになるでしょう。退職金も、破産者にとっては収入とみなされるため総支給の8分の1の金額で20万円を超えた場合は、処分対象となります。
財産がなくても管財事件になることも?
自己破産しても自分には財産がないから問題ない、と考えるのは早急でしょう。なぜならば、財産がなくても管財事件にあることもあるからです。たとえば、過払い金の未調査・免責不可避事由があるなどの場合は、管財事件に指定されることがあります。詳しく見ていくことにしましょう。
<過払い金の未調査>
自己破産をする人には、過去に多額の過払い金が見つかることが多くあります。実際によく調べると、過払い金生産をすれば自己破産をすることなく済む例もよく見受けられるものです。そのため、自己破産を申請する前には、過払い金の有無の調査を完了しておくべきだというのが一般的な見解です。もしも自己破産の申請の前に過払い金が未調査であったならば、管財事件として扱われる可能性が高くなります。
なお、自分に過払い金が存在するかどうかについては、弁護士などを通して調査をするといいでしょう。条件によっては、完済済みの借金でも過払い金が判明し適切な手続きを踏むことで払い過ぎたお金を取り戻すことができることがあります。お金が多く戻ってくれば、自己破産をするまでもなく、借金返済が完了することもあるのです。
過払い金については、存在の有無を調べるだけでなく、借入先への通知や払い戻しの交渉なども必要になるため、専門家の知識と経験に頼ることになるでしょう。おおよそ2010年以前に消費者金融業者やクレジットカードのキャッシングを利用していた場合で思い当たる節があるのなら、弁護士などに相談して調査を進めてみてください。
<免責不許可事由がある>
たとえば、以下の場合は免責不許可事由となって、破産管財人が選定され、厳しく調査されることになります。
・自己破産の申請をするときに嘘をついていた
・正当な理由もなく裁判所への出廷を拒んだ
・自己破産後であっても新たに借金をしたなど
たとえ同時廃止の条件を満たしていても、免責不許可自由が発覚した時点で自動的に破産管財人が選定され、管財事件となります。なお、調査の結果、免責不許可事由が重大かつ故意であることが判明すれば自己破産が認められないことになるでしょう。自己破産が認められなくなれば、借金の返済義務を免れることはできません。
<そのほかの事由>
そのほかにも、以下の事由があると管財事件となります。
・借金総額が5,000万円以上に達している
・借金をしている数が多い
・破産者が事業主や法人代表者
資産が少なくても、上記のような例では管財事件となるため、、手続きが複雑化・長期化することになります。
自己破産の手続きは専門家に相談を
同時廃止と比べ、管財事件は手続きが複雑になるだけでなく長期化するため、自分で進めようとすると困難を極めます。同時廃止で行けると思っても、実際は管財事件(もしくは少額管財事件)として扱われるケースが多いことを考えると、弁護士などの専門家に依頼するほうが効率よく進めることができるでしょう。何よりも時間と手間の節約になることは、とても大きなメリットです。
いずれにしても、さまざまな書類作成や提出・財産の調査・債務者への連絡と交渉など、自己破産には多くの面倒が伴います。事務的に進めようとしても、手続きが多すぎて物理的な疲労がたまりやすいほか、精神的な負担も相当なものになるでしょう。自己破産については、法律の専門家である弁護士などの専門家に相談しながら進めることで、あらゆる負担から解放されて楽になります。不安や疑問があってもすぐに聞いて解決できる安心感も見逃すことはできません。
まとめ
今回は、自己破産の同時廃止と管財事件は何が異なるのか詳しく解説しました。自己破産の申請でも、所有資産がごく少額である場合は、簡易的な手続きで終わる同時廃止で済むことが多いものです。しかし、裁判所によって少額管財事件や管財事件として取り扱う基準が異なるため、よく調べることが必要です。そのためにも、自分が今どの程度の資産を持っているのか正確に把握しましょう。また、財産がなくても管財事件になるケースもあります。過払い金が未調査・免責不許可事案がある等の場合は、自動的に管財事件として扱われることになります。素人では判断がつかないことも多いので、弁護士などの専門家に相談して手続きをしていくといいでしょう。